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【18禁】水葬銀貨のイストリア

はじめに

一言で言えば見えてる地雷です。

  • 主人公の情報を隠しすぎ
    • 主人公がどんな人物か分からないまま数々の奇行に走るので感情移入が全く出来ない
    • リアルタイムでは物語を理解できず、情報が出てからそれまでの描写を遡って思考する必要がある
  • どういう話にしようとしたのかは理解できるが、そこに持って行くまでの展開に無理がありすぎる
  • 作者特権を悪用した反則技でプレイヤーを誤った情報に誘導する
    • 過剰な情報隠蔽もそれが目的
  • 展開の意外性だけで勝負している感じだが、それほど意外な展開でもない

第1章

最初に見る光景については後で説明します。

ヒロインの一人、煤ヶ谷小夜に中途半端な態度を取るけれど、その理由が説明されないままにシーンが進んでいきます。 学校ではハブられているらしいけど、その理由も説明されないままシーンが進んでいきます。 感情移入もシナリオの理解も全くできないまま淡々とシナリオが進んでいきます。 しばらくしてようやくハブられる理由が語られますが、それも学校全員の生徒からハブられる理由としては不十分です。 しばらくして妹の茅ヶ崎夕桜が出てきて、兄との妙な関係が発覚しますが、その理由も説明されないままシーンが進んでいきます。

さて、話が進み、進藤和奏と小不動ゆるぎの二人の少女が、黒鉄&小脇という名の如何にも悪そうな二人の三年生男にイカサマ神経衰弱に負けて、170万円を要求されます。 そこに颯爽と駆けつけて少女たちを救う主人公…というと聞こえが良いですが、これが呆れ返るほどのトンデモなシーンです。

まず、神経衰弱に持ち込む過程に無理があります。 このシーンは、進藤和奏が二人の三年生男に不法占拠している教室(新設部の部室にする予定)を明け渡すよう交渉した所から始まります。 それに対して、この二人の三年生男は、二人の少女を都合良く利用しようとします。 二人の三年生男は、唐突に神経衰弱での勝負を持ち出して、勝てば教室を明け渡すが、負ければ170万円払えと要求してきます。 しかし、本気で罠にはめる気があるなら、最初から警戒させるような話を持ち出してどうするのでしょうか。 が、なんと、驚いたことに、ヒロインの一人、小不動ゆるぎはこの話を二つ返事で了承します。 まあ、その後の展開の方が遥かにトンデモなので、小不動ゆるぎのお花畑な言動なんて軽く吹っ飛んでしまいますけど。 さらに、当日、教室に二人の少女がやってくると、何故か、彼らは本当に神経衰弱を始めます。 男二人と女二人が密室に集まった時点で罠は完成しています。 初めから力づくで言うことを聞かせれば良いのに、どうして律儀に神経衰弱などやっているのか理解不能です。 主人公は現行犯を押さえなければイカサマ指摘は意味が無いと言うけれど、この神経衰弱の方がよほど無意味です。 確かに、イカサマの証拠も残らないけど、神経衰弱の勝敗の証拠も残らないので、二人の少女が結果に納得しなければ、最後は力づくになることが分かりきっています。 だったら、神経衰弱などせずに、初めから力づくで言うことを聞かせれば良いのです。

主人公が登場してからの展開もミエミエすぎます。 わざわざ、500万円の現金を用意して、最大で910万円支払うことになる勝負を、勝算もなしに挑むなら、とんでもないお花畑です。 普通に考えて、そんな展開では物語が成立しないので、何か勝算があることはプレイヤーにはミエミエです。 途中、主人公が迷ったような仕草を見せたりしますが、勝算があることが分かっている以上、これもフェイクであることがミエミエです。 そして、主人公が何を仕掛けたかも容易に予想できます。 唯一、驚いたことは、勝負に負けた黒鉄の潔さだけです。

そして、極め付けは、上級生の男二人組が訳のわからない理由でビビって逃げ出すところです。 主人公が見せたことは、プロ並みのカードさばきと1ターンで神経衰弱を終わらせたことだけです。 背後に怖いお兄さんがいることを仄めかしたわけでもなく、そういう店の名前を出したわけでもありません。 完敗を認めざるを得ないことは確かでしょうし、穴があったら入りたくなるほどの恥を掻いたのも事実でしょう。 しかし、ビビって逃げ出すような状況ではないはずです。 あまりに不自然な展開に開いた口が塞がりません。

主人公がヒロインの一人の危機を颯爽と救うシーンを描きたかったのは分かります。 だから、主人公の得意分野での勝負に持ち込もうとしたのでしょう。 そこまでは問題ありません。 しかし、そこに持って行くまでの展開がお粗末すぎます。 というか、その後の展開もお粗末です。

第2章

ここで最初に見る光景についても後で説明します。

主人公の行動の動機を理解するために必要な情報が隠されているため、ヒロインを裏切る主人公の行動に対して全く感情移入ができません。 いや、動機があること自体は分かりますよ。 しかし、裏切られたヒロインが相当酷い目に合うと予想されることに対して、それでもヒロインを裏切るだけの理由があることを裏付ける情報は一切ありません。 だから、何か事情があってやってるのだろうとは予測できても、主人公に対する感情移入は全くできません。 ヒロインに逃げられる機会を与えたことは情状酌量の余地が認められるものの、ただの言い訳が用意されたというだけで特筆すべきことは何もありません。 同居生活等で情が憑ったはずのヒロインにも非情になるだけの特別な事情があるとプレイヤーに察してもらうためだけに描いているなら、無駄に長いとしか言いようがありません。 ヒロインの登場の仕方も、奇を衒っただけで、何ら面白いものではありません。

第3章

妹の看病のために主人公が取った行動だけは評価できます。

後半は、第3章までで最悪のシーンです。 ヒロインの名前の表示を隠し、ヒロインの音声も消し、視点交代を示す情報を示さないようにして、プレイヤーに主観上の人物を誤認させようとします。 しかし、自分が何者かは主観上の人物が当然知っている情報ですし、主観上の人物は自分の声を聞くことができるはずです。 視点交代を示す情報を隠すことは表現上のルールに違反しており、かつ、主観上の人物が自身の声を聞こえなくすることは作品世界の物理法則を歪めています。 ただし、他人の意識に簡単に入り込むことができ、かつ、主観上の人物の声は全く聞こえない特殊な物理法則が働くファンタジー世界…という設定であれば、ルール違反でもないし、物理法則も歪めていません。 しかし、このゲームではそのような設定は示されていません。 表現上のルールに違反したり作品世界の物理法則を歪めてまで、真実と異なる情報をプレイヤーに提供する、あるいは、真実に繋がる決定的な情報をプレイヤーから遮断するのであれば、作家としての能力は全く必要ありません。 それを実現するために必要なものは作者特権だけです。 作者特権に完全依存しなければプレイヤーを欺けないなら、それは三流作家の証拠です。

一流作家は、作家としての能力でプレイヤーを欺きます。 舞台、演出、台詞回し等の作品として構成された内容でプレイヤーを欺くのが一流作家です。 もちろん、一流作家も作者特権を行使しますが、表現上のルールに違反したり作品世界の物理法則を歪めることはなく、プレイヤーを欺くための内容を作品中に実装するためだけに作者特権を行使します。 実際に、表現上のルールに違反したり作品世界の物理法則を歪めることはなく、プレイヤーを欺くための内容を作品中に実装した叙述トリック作品*1 *2もあります。

第1章の冒頭は主人公が見ていた夢ではないし、第2章の冒頭も主人公が体験したシーンではありません。 いずれも主人公とは違う視点での出来事であり、その事実をプレイヤーに示していなかっただけです。 このような稚拙な手法でプレイヤーを欺こうとしていますが、視点変更時の主観上の人物の能力が第1章で主人公が見せた能力に比べて明らかに低いため、感の良い人は主人公ではないことに気がつくでしょう。

第3章の最後に、今まで隠していた情報の幾つかが公開されます。

  • 主人公が煤ヶ谷小夜に中途半端な態度を取る理由
  • 茅ヶ崎夕桜と主人公の妙な関係の理由
  • 汐入玖々里がどのような人物か

これらを踏まえてそれまでの描写を遡って思考して、ようやく物語の理解がある程度進みます。

まとめ

以上のように、少なくとも、体験版の範疇では褒めるところがありません。 というより、話の展開に無理がありすぎるし、プレイヤーを欺こうとする手法も稚拙過ぎます。 そして、稚拙な手段でプレイヤーを欺こうとした結果、シナリオの理解や感情移入に支障が生じています。 体験版をプレイした限りでは、作家としての能力不足が露呈した、見えてる地雷です。

Last modified:2017/11/25 11:34:17
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*1 作品名を挙げると支障があるので、とあるゲーム作品におけるトリックの概要を説明します。 その作品では次のような情報を提示して主人公(α)とβが同一人物であるとプレイヤーに思い込ませようとします。

  • βの正体が判明するまでは、αとβは同時に出現しない
  • βの正体が判明するまでは、αの視点とβの視点で描かれる(ただし、どちらの視点であるかは明示する)
  • αは定期的に精神的カウンセリングを受診している(何らかの精神疾患の可能性を示唆している)
  • ヒロインAがβとの同一人物疑惑をαに投げかける
  • ヒロインBがβの姿を見てαの名前を呼ぶ(αとβが似ている理由については、少しずつ情報を小出しにしつつ、終盤には完全に明かされる)
  • αが持っていたはずの物が何時の間にかβに奪われる

これらの表現は作者特権で配置されたものですが、表現上のルールに違反したり、作品世界の物理法則を歪めたりはしていません。 ただ、一点問題があり、αとβが別人であるとヒロインAは知っていたはずなのに、何故、同一人物疑惑を投げかけたかの疑問が解消されないまま終わっています。 これは辻褄合わせが十分でないことを示しますが、トリックの仕掛け方の良し悪しとは直接関係ありません。

*2 また、主人公が視認可能な情報を遮断する手段として「法律で見ることが禁止されている」という設定を導入したゲーム作品もあります。 かなり強引な設定ではあるものの、表現上のルールに違反したり、作品世界の物理法則を歪めたりはしていません。 そして、だからこそ、作品世界中で、時々、視認可能な情報の存在を仄めかす現象が発生します。